未払い残業代の請求に関する労働審判、民事訴訟が提起された場合の対応について
弁護士法人ニューステージでは、数多くの会社様のご依頼により、従業員とのトラブル(特に未払い残業代請求や解雇についての紛争)を取り扱い、サポートさせていただいております。
未払い残業代の請求に関する労働審判、民事訴訟が提起された場合の対応についてご説明します。
事前に内容証明郵便による請求がある場合が多い
労働審判や民事訴訟が提起された場合、裁判所から訴状などの書類とともに貴社に通知が届くことになります。
このような裁判所の書類が、事前に何の予告もなく突然送られてくるというケースは多くはありません。
未払い残業代の請求の場合、事前に内容証明郵便などによる請求があり、交渉が決裂しているという場合が多いと言えます。
(1) 交渉段階から弁護士に依頼している場合
もし、すでに弁護士を通じて適切に対応している場合は、労働審判や民事訴訟の書類を弁護士に渡し、従前の方針でそのまま代理人に就任してもらうのが一般的です。
(2) 交渉段階では弁護士に依頼せず、労働審判・民事訴訟において弁護士に依頼する場合
これに対して、内容証明郵便による請求や交渉段階では弁護士に依頼しておらず、決裂後、労働審判や訴訟になった段階で、弁護士に依頼するという会社もあります。
なお、交渉段階で弁護士に依頼しないという方法は、おすすめできません。なぜなら、交渉段階で会社が主張した内容が法的に誤っているなど、後に訂正しなければならない場合もあるからです。
主張が変遷することは説得力という点でも問題がありますし、以前の主張について、何故そのような主張をしたのかという説明も必要となり、防戦を強いられることになってしまいます。
突然、労働審判や民事訴訟が提起される場合
事前の交渉がなく、突然労働審判や民事訴訟が起こされるケースもあります。
突然裁判所からの書類が届くわけですから、驚かれる方も多いと思います。
しかし、まずは落ち着いて行動してください。
経験豊富な弁護士の事務所に連絡し、打ち合わせの予約を取った上で、必要書類などを収集しましょう。
裁判所からの書類には、「甲1号証」などと記載された証拠書類も含まれていると思いますが、それはそのまま弁護士に見せるとして、社内に残存している書類を確認してください。
弁護士の相談に必要な資料
弁護士への相談にあたっては、次のような資料が必要となります。
(1) 就業規則、賃金規程など
これらは、会社の労働制度の資料になります。残業代を計算するにあたっても必要不可欠です。
従業員との三六協定などの協定を結んでいる場合はその資料も拝見したいと思います。
(2) 雇用契約書、労働条件通知書など
請求者である従業員との雇用条件が明記されていますので、必要な資料となります。
その他、入社時の説明資料や、求人広告なども参考になる場合があります。
(3) 給与明細、給与台帳など
従業員に対して、給料が、どのような費目で、どのように計算されて支給されているかを知るためのものです。
(4) タイムカード、出退勤簿など
実際の労働時間を示す資料があるかは会社によっても異なりますが、可能な限りの資料を検討する必要があります。
場合によっては、会社事務所の鍵の開閉の記録や、パソコンのログイン記録なども労働時間を確認する資料になることもあります。
(5) その他、会社の概要、組織図など
会社の中でどのような業務に従事していたか、役職なども重要です。
以上のような資料を弁護士が確認し、十分に事情をお伺いして、対応方針を決めていくことになります。
労働審判の特徴
これまで、民事訴訟と労働審判についてまとめて述べてきましたが、労働審判は、通常の民事訴訟と異なる大きな特徴があります。
「労働審判期日が開催されるのは原則3回まで」
という決まりがあるのです。
第1回期日は、それまでに双方からの書面を提出させ、双方の主張が出された上で、争点に関する双方の意見をヒアリングしていきます。
事案によって異なりますが、第2回,第3回の期日は、ほとんど「和解」の交渉にあてられることが多いと言えます。
労働審判の最大のメリットは、このように回数が限定されていることで、「早期解決」できる場合が多いということです。
裁判などの法的手続に対応しなければならないというのは、思っておられるよりも費用や時間のコストがかかりますので、早期解決のメリットは、従業員側のみならず、会社側にとっても大きいと言えます。
もっとも、このような早期で終わるという労働審判には、デメリットもあります。
主張や証拠について、民事訴訟ほどの十分な精査が行われず、和解を求められるケースが多いということです。
労働事件の場合、ほとんどのケースでは会社側に「和解金」「解決金」などの名目での負担を求められます。
会社側として主張している、残業代の計算方法や実際の労働時間の証拠などをもっと分析してもらいたいと考えていても、すぐに和解金額の話になり、意に沿わない和解をすすめられるという場合もあります。
民事訴訟のように、時間をかけて十分な審理を尽くした上での和解提案なら受け入れられるとしても、会社によっては、納得いかないことも多いと思います。
このような労働審判のメリット・デメリットを十分に考慮して、対応していくことになります。
労働審判での和解が成立しなかった場合、審判が下されるのが一般的ですが、納得いかなければ民事訴訟に移行することも可能です。
また、労働審判委員会(裁判官のような方々)の判断で、労働審判を下さずに、労働審判手続きを終了させることも可能です(24条終了といいます。)。
これは、事案の性質に照らして、労働審判で早期に判断することが適当でないと判断された場合です。
労働審判で行うか、民事訴訟で行うかを決めるのは従業員側になりますので、会社側として、労働審判での手続きになじまない事案であると考える場合は、この24条終了を求めていく場合もあります。
ただし、先ほども説明したように、早期解決のメリットは、会社側にとっても大きいため、事案によって、経験豊富な弁護士に相談した上で方針を決めることになると思います。
本稿では、労働審判や民事訴訟が提起された場合の対応についてご説明させていただきました。
労働審判や民事訴訟が提起された場合は、是非一度、当事務所にご相談ください。